カール・アンドレ 彫刻と詩、その間

鑑賞ノート

  • 会期:2024年3月9日(土) ~6月30日(日)
  • 時間:9:30~17:00 (入館は16:30まで)
  • 休館日:月曜日(4/29、5/6日は開館)、4/30(火)、5/7(火)
  • 会場:DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市坂戸631)
  • 主催:DIC株式会社
  • 協力:ポーラ・クーパー・ギャラリー、ギャラリーヤマグチ
  • 助成:千葉県、千葉県教育委員会、佐倉市、佐倉市教育委員会

ミニマル・アートの作家、カール・アンドレ(1935 – 2024)の展覧会です。

入り口で係の方から「上を歩くことができる作品があります。ただし手で触れてはいけません」との説明がありました。

作品リストを見つつ、歩いてもよい作品をチェックしながらの鑑賞です。

はじめはおっかなびっくりですが、歩いているうちにだんだん楽しくなり、作品/素材と対話をしているような気持になってきます。

それぞれの作品には、同じ素材で同じ形状のユニットが使われています。

立方体の石のブロックが床面に正方形に配置されている、うすい金属板がライン状に整然と並べられている、L字に曲げられた巨大な鋼材が通路を形づくっている・・・というスタイル。

文章を読んで「えっ?それだけなの?」と思われるかもしれませんが、実際の展示では、それらの作品ひとつひとつが作り出す「空間としての魅力」にあふれています。

ポスターに使われている《メリーマウント》(1980)は、30.5×30.5×91.4 cmにカットされた米杉の角材21本を階段状に積み上げた作品です。

ただそれだけなのに、近づいたり距離をとったりしながらそのまわりを何度もめぐってしまいます。

作家自身、作品を置いたとき周囲の空間にまでその作用がおよぶ状態を指して「場としての彫刻」と述べました。

鑑賞者が作品と関わり、「作品にしたがって空間の有りようが変わる」のを感じとることで完成する作品なのです。

ユニットをよく見ると、木は乾燥してひび割れ、金属の表面にはキズがつき錆が浮き出ています。

完成当初、素材の表面は磨かれて無機質な印象だったことが想像されますが、時間の経過や鑑賞者の接触とともに、作家が意図しなかった表情が素材に加わっています。

「芸術的な表現が最小限であること」をめざしたミニマル・アートにあっては、経年変化によって余計な情報が加わるのは好ましいとはいえないでしょう。

しかし、新しく加わったその質感から、ミニマル・アートがすでに「歴史上の事件」であることに気づかされます。

立体作品の中には、ガラスのショーケースにおさまる小さいサイズのものもあります。

《6つの組み合わされた作品》(2019)は1×2×2 cmの12個の木片によるバリエーションで、着色してあるユニットも含め積み木のような愛らしさが感じられます。

美術館のサイトによれば、作家は今年1月24日に88歳で亡くなられたそうですが、高齢になっても素材と向き合い制作を続けた作家の姿が思い浮かぶようで、小さい作品たちに親しみを覚えました。

カール・アンドレは1958~1965年を中心に、生涯に2000編以上の詩を書きました。

今回はじめて詩の作品を見たのですが、文字の間隔や単語の配置、印字されたインクの色とのじみ、スペースのあいた紙の白に思わず見入ってしまいました。

その余白は、日本の「間」の感覚に似た静けさをたたえています。

打ち出された文字が整然と並ぶ紙面には、立体作品が作り出す「場」にも通じる空間の美学があります。

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